カセットテープ復活

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デジタル化が進み、多くの人が定額ストリーミングで音楽を聴く時代に、カセットテープ人気が再燃しつつある。

中高年によるただの懐古的な動きではなく、普及していた時代をリアルタイムで知らない若者までがその魅力にハマっているようだ。その理由を探る。

《市場が縮小していたカセットテープ》

1962年に発売され、70年代頃から音楽メディアとして も浸透。

アーティストがカセットテープでリリースした作品をそのまま聴くこともあれば、自分で録音してオリジナルのテープを作る楽しみもあり広く普及した が、82年に登場したCDの台頭により、その市場は次第に縮小。

2000年代には音楽ファイル圧縮技術、mp3も浸透し次第に姿を消していった。

カセットテープ人気が再燃?

渋谷や中目黒で取扱店やイベント増加

ビームスが展開する音楽部門「ビームス・レコーズ」が、2015年3月にカセットテープを集めた企画展を開催。 14年に渋谷にオープンしたHMVレコードショップではアナログレコードとともにカセットテープを精力的に取り扱う。また15年夏には中目黒に中古カセッ トテープ専門店「ワルツ」がオープン。

「レコードの比じゃないくらいの伸び」(HMVレコード店)

HMVレコードショップ渋谷では「カセットテープは前年比で言うとレコードの比じゃないくらい伸びている」(竹野 智博店長)という。アマゾンでCDとDVDの販売を立ち上げた経験を持つ角田太郎氏が店主を務めるワルツには、愛好家はもちろん、名の知れたミュージシャ ンから若い学生、外国人まで、様々な客層が連日訪れるという。

ユニコーンや大貫妙子…カセット作品リリースするアーティストも

大貫妙子は、自身が1977年に発売したセカンドアルバム「SUNSHOWER」をカセットテープで再販。ユニコーンもTBSドラマ「重版出来!」の主題歌「エコー」で、A面が楽曲、B面がカラオケという構成の「カセットシングル」をリリースしている。

アーティストの中には、CDのおまけとしてカセットテープを付けたり、テープにダウンロードコードを付けたりするリリースが増えているそうだ。

70~80年代のアナログメディアがなぜ今?

世界的なトレンド…日本では2015年頃から

HMVレコードショップ渋谷の竹野氏は、同店がオープンした2014年頃から「米国をはじめとする外国ではカセットテープの売れ行きは好調だった。日本で盛り上がりを感じるようになったのは15年のはじめ頃」と話す。

米国ではインディーズで流行、いまやメジャーでもカセット版発売

米国ではインディーズレーベルやバンドの間で、カセットテープにダウンロードコードを付けて売る方法が流行。全米 レコード協会(RIAA)が認定する「ゴールド&プラチナムディスク」を獲得したアルバムでカセット版も発売される例が増えセールスも好調。ジャ スティン・ビーバーやカニエ・ウェストも発売している。

一時落ち込んだテープの売り上げ、英国では7年で10倍に

英国では2007年にカセットテープの売り上げが20万個まで落ち込んだが、15年には200万個まで戻った。欧米では「アーバンアウトフィッターズ」といった衣料雑貨チェーン店やオンライン上で販売されている。

小ロットで発注可能…インディーズには好都合

カセットテープ専門の音楽レーベル「ゾンビ・フォーエバー」を運営する森幸司氏は、「工場の都合上、CDは最低で も1000枚ぐらいからしか生産できず」、インディーズレーベルにはセールスのノルマが高すぎる一方、カセットは発注された数だけの生産が可能なため「在 庫を抱えることがなく、赤字になりにくい」と説明する。

再評価されている理由は?

「モノとしての存在感が、若い世代には新鮮に映った」

カセットテープ収集家の松崎順一氏は「カセットテープの前にレコードのリバイバルが起こった。レコードはCDより もサイズが大きく、凝ったジャケットを眺めたりする楽しみが評価された。カセットも、CDとは異なるパッケージやコンパクトな外観が、リアルタイムにそれ を経験していない若者には魅力的に映った」と分析。

「手間をかけて聴くことで音楽とじっくり向き合える」

ワルツ店主の角田氏は「カセットテープで音楽を聴くには、テープをラジカセに入れて、再生ボタンを押すという所作が伴う。(そんな)手軽ではない部分が評価されている」と話す。手間がかかる分、「音楽とじっくり向き合えるともいえる」とも。

「空気を内包したような“サーッ”というノイズがいい」

米国のエクスペリメンタルロック・バンド、バトルスのメンバーであるイアン・ウィリアムス氏は、カセットテープは 「空気を内包したような“サーッ”というノイズが入っている。CDが出たとき、あの雑音がなかったから高音質とされたけど、今聴いてみるとあのノイズがい い」と言う。

「周波数特性の狭さが前に出てくるエネルギー感の強さ」

カセットやラジカセはオーディオ好きの間でもブーム。AV評論家の小原由夫氏は「カセットテープをデジタルアーカ イブ化する際に…その魅力を再認識した人は多い」といい、「カセットの音は、ハイレゾ音源と比べると周波数特性が狭いが、その狭さが前に出てくるエネル ギー感の強さ、音の厚みに繋がっている」と話す。

「『データにお金を払っている状態』のCDに違和感」

前出の森氏は、「CDは、一度PCにデータを取り込んでしてしまえば、いくらアーティストやレーベルがこだわって 作ったものだって、引き出しの中にしまわれっぱなし…。『モノというよりデータにお金を払っている状態』に違和感があった」とし、カセットテープに「モ ノ」としての価値観を見出す。

「デジタルへのカウンターカルチャー的側面が大きい」

HMVレコードショップ渋谷の竹野氏は「YouTubeでも聴ける音源をわざわざカセットテープやレコードで買うっていうのは、やはり(デジタル化への)カウンターカルチャー(対抗文化)的側面が大きいと思う」と話す。

“復権”のカギはオーディオ機器

カセットテープレコーダー売り上げ増も…ターゲットは60~80代

カセットテープレコーダーの売り上げも伸びている。調査会社GfKジャパンによると、2015年の家電量販店にお けるその売上げは数量で前年比20%増、金額で同21%増。しかし、15年12月に新商品を発売した東芝エルイートレーディングの商品企画部によれば、 「顧客のターゲット層は60~80代」という。

mp3対応の車載用カセットデッキも発売されるが…

カーエレクトロニクス機器の製造販売を手がける「ビートソニック」(愛知県日進市)は9月16日から、車載用多機能型カセットデッキ「HCT3」を発売する。オートリバースでカセットテープを再生できるほか、AM・FMラジオ、マイクロSDカードやUSBメモリなどでMP3の再生も可能。価格(税別)は1万6千円。

今求められているのは「安くて見栄えのいい」プレーヤー

前出の竹野氏は「カセットテープの一番の課題はハード、つまりカセットを再生できるプレイヤー」と指摘。現行のカセットデッキはあくまでCDがメイン、レコードブームの時のように1万円ほどで買える「見栄えのいい」プレーヤーが「増えればもっと盛り上がるのでは」と話す。

「ラジカセが売れれば、世界一のオーディオ技術も活かせる」

「1980年代のオーディオは日本の家電メーカーの象徴」と力説するのは前出の角田氏。「ラジカセが売れれば、メンテナンスも増え職人の技術も活かせる」「ビンテージカーに近い話だが、オーディオ機器でやってるのは、世界レベルで見ても他にない」という。

5月に大阪市で開催された「大ラジカセ展」の会場には懐かさを感じる約100台がズラリ。監修したのは東京在住の家電収集家で研究家の松崎順一氏=大阪市北区のロフト梅田店

5月に大阪市で開催された「大ラジカセ展」の会場には懐かさを感じる約100台がズラリ。監修したのは東京在住の家電収集家で研究家の松崎順一氏=大阪市北区のロフト梅田店

《日本で唯一残るカセットテープメーカー》

日本で現在、唯一カセットテープを作っているのは日立マクセル。

1966年に国内で初めて発売したのも同社。売り 上げは1970年代後半から1980年代にかけて急増し、1989年がピークという。「当時は国内だけで年間5億本以上を販売していた」(同社事業企画 部)という。

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