寒い家で暮らすと、脳や心臓に負荷がかかる――。
海外ではすでに常識であり、日本でも研究者によって着実に知見が集められている。
住宅の断熱性能と健康の関わりを研究している慶應義塾大学の伊香賀俊治教授は
「脳や体を健康に保つために、室内の温度が重要であることが立証されつつあります」
と話す。
実際、高断熱・高気密で温熱環境が整えられた住まいに暮らす人は、断熱性能の低い家に住む人に比べて病気にかかりにくかったり、アレルギー疾患を発症しにくいという研究結果もでている。
とにかく寒いの キライだにゃ~
ネコの体温は人間より2度くらい高いので、抱いて寝ると暖かいです
犬も同じくらいの体温ですが、ネコほど寒がりではありません
ネコが寒がりなのは、体温だけのせいではないのかも (^_^;)
無断熱の家が8割超 温暖地こそ冬の対策を
そもそも、日本の家の断熱はどの程度進んでいるのか。
詳しく資料を見てみると、文字通り“お寒い”実情が浮かび上がる。
総務省の住宅・土地統計調査によると、二重窓や複層ガラス窓で断熱された住宅は、全国平均で25%程度に留まっている。
しかもその多くは北海道や東北などの寒冷地に集中し、九州や四国など温暖な地域では10%余りという地域も珍しくない。
「省エネの時代でも、一定のレベルに断熱できている家は一握りです。日本で築20年、30年が経過した戸建ては、多くが無断熱で、中山間地には寝室ですら10度を下回るような家が当たり前に存在しています」
興味深いのは、高断熱住宅の普及率と冬の死亡率に関わりがあるということだ。
たとえ厳寒地でも、住まいを暖かく保つ知恵を持っている地域では死者が少なく、逆に温暖なエリアでも無断熱の家が多いと死亡率は上がる傾向にある。
これは海外でも同様で、北欧の国々よりも南欧の方が冬季死亡率は高い。
高緯度にあるイギリスでは、寒い家に住むことで健康リスクが高まるとしてさまざまな対策が取られている。
暖かい家に暮らすことで脳を6歳若く保つ
毎日運動したり、塩辛い食事を控えたり――。
老後も元気に過ごすために、生活習慣を見直す人は多い。だが、生活習慣と同じか、時にそれ以上に重要なことがある。
それが住まいの断熱である。
伊香賀教授の研究室では、大阪府の千里ニュータウン在住で要介護認定を受け在宅の住民を対象とした追跡調査を実施。
暖かい家に住んでいる人のほうが、介護なしで活動できる『健康寿命』が4歳長いことが明らかになってきた。
また高知県檮原町の調査では寒い寝室で寝起きする人はより高血圧になりやすい傾向も認められている。
「例えば2003年から10年後までの間に高血圧を発病した方をみると、就寝時の室温が18度以上の家に住んでいる人と、18度未満の人では、後者のほうが発病確率が6.7倍も高くなっています」と伊香賀教授。
室温だけでなく年齢や性別、肥満の度合い、喫煙や食事の塩分など、さまざまな要素を見ても、寝室の温度が高血圧の発病に与える度合いとしては最も大きかった。
さらに最新の研究では、暖かい家が脳年齢を若く保つのに貢献している可能性も見えてきた。
伊香賀教授の研究グループは、檮原町の若者から高齢者まで合計59人に特殊なMRIで脳ドックを実施。
同時に自宅の状況も調べ、床上1.1mの平均室温18度の暖かい家と、同14度の寒い家の2グループに分類し、脳の状況を比較した。
「その結果、暖かい家のグループのほうが脳の状態が顕著に良好でした。脳年齢に置き換えると、足元がわずか3度暖かい家に暮らしている人は、脳を6歳若い状態に保ってるのと同等の効果が見られたということです」
夏の厳しい日射を遮り『かくれ熱射病』を防ぐ
断熱は夏場にも有効だ。
「高齢者が夏期に注意すべき熱射病は、実は室内で多く起きています。
特に高齢者は自分の乾きに気付きにくくなっているため、知らずに体内温度が上がる『かくれ熱射病』になりやすい。
夏場にも、エネルギー効率の良い高断熱住宅できちんと空調を掛けることは重要なんです」
また断熱が低い環境は、子どもたちの健康にも望ましいものではない。
「寒い家・寒い保育園にいる子どもは風邪などを引きやすく、休園率が高い傾向にあります」と伊香賀教授。
両親、子世帯、その子どもという多世帯住宅には断熱の構えが不可欠だろう。
地方の戸建てなどで敷地面積が広く、リフォームでは断熱しきれないという場合には、寝室や居間、水回りなどの生活空間の断熱施工、内窓設置など開口部の改善も効果的という。
もしも普段から「ウチの家は冬場は寒いな」と感じているなら、住まいの断熱を積極的に考えていきたい。