カナダ人のドナ・ペナーさんは、自分が受ける腹部の手術について楽観していた。
ーーー執刀医による最初の切開直前に、目を覚ますまでは。
火葬されてる間に意識が戻るのって ものすごく怖いけど
それの次くらいに とても怖いですね ((((;゚д゚))))
麻酔が効いていない状態で手術を受けるという、拷問のような痛みを生き延びた経験について、ペナーさんが語る。
2008年、診断的腹腔鏡検査を受けるために、カナダ、マニトバ州にある地元の病院に入院することになった。
当時44歳で、生理時の出血が酷かったためだ。
全身麻酔は以前に受けたことがあり、この手術のためにも全身麻酔が施されることは分かっていた。
これまで問題が起きた経験はなかったが、病院に到着すると、かなり不安になってきた。
腹腔鏡検査の際、腹部内を観察できるようにするため、医師は患者の腹部に器具を挿入するための切り込みを入れる。大きな切り口を1つ作る代わりに、小さな切り口を3つか4つ作るのだ。
手術の始まりは順調だった。医師たちは私を手術台に移し、私をさまざまなモニターに繋いだり、手術に向けて私の皮膚を消毒したりして、通常の準備をし始めた。
麻酔科医は点滴で何かを私に投与し、私の顔にマスクをかけて「深呼吸して」と言った。言われた通り深呼吸をすると、予定通り私は眠りに落ちていった。
目覚めると、まだ手術室の音が聞こえた。スタッフが立てているガチャガチャという音や、モニターなどの機器が動いている音がしたのだ。「ああよかった。終わった、終了したんだ」と思った。
まだ少し薬が効いているような感じを味わいながらそこに横たわっていた。しかし同時に頭はすっきりしていて、目覚めてすっかりリラックスしている、ゆったりとした感覚を満喫していた。
それは数秒後、執刀医の言葉を耳にした時に変わってしまった。
スタッフが作業をしながら動き回っていたところで、突然、執刀医の声が聞こえた。「メス」。私は凍りついた。「今、聞こえたのは何?」と思った。
でも私にできることなど何もなかった。麻痺剤が効いていたのだ。麻痺剤は腹部の手術では一般的で、腹筋を弛緩させるため腹部切開時に筋肉の抵抗がさほどなくて済む。
不幸にも、全身麻酔は効いていなかったのだが、麻痺剤は効いていた。
私はパニックになった。こんなこと、現実に起こっているわけがない。そのため少し待ってみたが、執刀医が最初の切り込みを入れたのを感じた。あの痛みを表現する言葉など見つからない。ゾッとするようだった。
目を開けられなかった。最初に、起き上がろうと試してみたのだが、動けなかった。まるで誰かが私の上に座って体重をかけているかのように感じたのだ。
何か言いたかったし、動きたかったが、できなかった。あまりにも麻痺していたため、泣くための涙さえ出せなかった。
その時モニターから、自分の心拍数を示す音が聞こえた。心拍数はどんどんと高くなっていった。
まさに恐怖そのものだった。皆が私に向かって作業しているのが聞こえたし、しゃべっているのが聞こえた。執刀医が切開口を作り、私の腹の中に器具を押し込んでいるのを感じた。
執刀医が腹部を調べる際に、私の内蔵を動かしているのを感じた。そして「虫垂を見て。とてもいい状態だしピンク色だ。大腸も良し、卵巣も良し」などと言うのが聞こえた。
自分は起きているんだと示すために、足を3回、なんとかピクッと動かすことができた。でもそれをする度に誰かが、私が動いたことを言葉にもせずに、動きを止めようと足の上に手を置いてしまった。
手術は1時間半ほどかかった。
しかもその上、私は麻痺状態になっていたため、医師たちは私に管を入れ、人工呼吸器につないでいた。そして毎分7回呼吸するよう設定されていた。心拍数は毎分148回もあったのに、わずか毎分7回の呼吸だけしか与えられなかったのだ。窒息しそうだった。まるで肺が燃えているように感じた。
手術が終わって、最後の仕上げをし始めているのかなと思う時があったのだが、まさにその時、舌が動かせることに気づいた。
麻痺が切れてきていると分かったのだ。「まだ喉の中にあるこの人工呼吸器の管をいじってみよう」と考え、医師らに気づいてもらおうと、管を舌でゆらゆらと揺すり始めた。
効果があった。麻酔専門医に気づいてもらえた。しかし彼は、実際に私が麻酔から覚めかけている以上に覚めたのだと思ったに違いない。なぜなら、彼は私の喉から管を外してしまったのだ。
そこに横たわったまま、「さて本当にまずいことになった」と考えていた。心の中で家族にはすでにさよならを告げていた。これを乗り切れる気がしなかったからだ。でも今や、呼吸までできなくなってしまった。
看護師が私に何か叫んでいるのが聞こえた。私の脇に来て、「息をして、ドナ、息を」と言っていた。でも私には何もできなかった。
彼女が息をしろと私にひっきりなしに言っていたその時、最も驚くべきことが起こった。幽体離脱をして、自分の体の外に出てしまったのだ。
私はキリスト教徒だ。天国に行ったとは言い難いものの、私がいたところは地球上でもなかった。どこか他のところにいたのは間違いなかった。静かだった。手術室の音が、まだかすかに聞こえた。しかしまるでそれは、はるか遠くにあるかのような音だった。
恐怖は消え、痛みも消えていた。温かく感じたし、慰められたように感じたし、安全だとも感じた。そして直感的に、私は1人ではないことが分かっていた。私と一緒にいる存在があったのだ。私は常に、一緒にいたあの存在は神だったと話している。私の中では、隣にいたのは神だったという疑いが全くないからだ。そのあと、「何が起こっても、あなたは大丈夫だから」と言う声が聞こえた。
その時、生きるにしても死ぬにしても、とにかく大丈夫だということが分かった。この術中覚醒中ずっと、気を紛らわせるために私は祈り、歌い、夫や子供たちのことを考えていた。しかしこの存在が私のそばにいる時、「どうか私を死なせてください。もうこれ以上こんなこと続けられません」と思った。
しかし、そこに行ったのと同じくらいの速さで、私は戻って来てしまった。指をパチンと鳴らすくらいの速さで私は再び、手術室の自分の体に戻っていた。スタッフが私に向かって作業している音や、「呼吸して、ドナ」と叫ぶ看護師たちの声がまだ聞こえた。
麻酔科医が突然、「肺換気して!」と叫んだ。彼らは私の顔にマスクを付け、手動式肺人工蘇生器を使って私の肺に無理やり空気を入れた。
その途端、それまで感じていた肺が焼けるような感覚が消え、とてつもない苦しみから解放された。また呼吸ができるようになったのだ。その時、麻酔科医が麻痺を弱める何かを私に投与した。話せるようになるまで時間はかからなかった。
後になってこの苦しい体験から回復したころ、執刀医が私の病室に来て、私の片手を両手で握り、「問題があったのは承知しています、ペナーさん」と言った。
「私は意識があったし、あなたが私を切っているのを感じましたよ」と医師に向かって言った。彼は目に涙をためながら、私の両手を握りしめて「申し訳ありません」と言った。
私は、あの時にこの医師が言ったさまざまなことを本人に話し始めた。私の虫垂や内臓について彼が口にした言葉だ。医師は、「ええ、言いました。それも言いました」と言うだけだった。
「私があなたに診断結果を尋ねていないの、気づきましたか?」と聞いた。医師は一瞬私を見て、「すでにご存知なのですね?」と言った。私は、「ええ、知っています」と答え、診断結果を言ってみせた。
あの術中覚醒から9年が経った。その後、私は病院に対して訴訟を起こし、すでに解決している。
手術の直後、私はセラピストを紹介された。あまりにも精神的外傷がひどかったからだ。初めての予約の日、それが何曜日だったかも分からないほどだった。とにかくボロボロだった。あの経験が、人間に大きな打撃を与えるのは間違いない。
しかし言葉にすることが助けとなり、時間が経つと、自分が経験したことを話せるようになった。
術中覚醒について、私はいろいろと調べてきた。マニトバ大学の麻酔学部に連絡し、これまで数回、研修医たちに話しをして来た。通常、彼らは私の経験を聞いて震え上がり、私の話を聞きながら涙を浮かべる研修医も少なからずいる。
私が自分の経験を話すのは、誰かを責めたり非難したりするためではない。こういうことは起こり得るし、実際起こるということを、みんなに理解してもらいたいのだ。人の関心を高め、この恐ろしい経験から、何か良い結果が生まれるよう手助けしたいと考えている。
意識がある状態での手術
・全身麻酔中に意識が残る事故(術中覚醒)は、手術1万9000件中約1件の割合で報告されている
・筋弛緩剤を使用するため、患者は大抵、意識があることを医師らに伝えられない
・術中覚醒のほとんどは、継続時間にして5分未満
・経験者の45%は中度から重度の精神的な痛手を受ける
・術中覚醒は、帝王切開手術や心臓手術で、または患者が肥満体型の場合に、最も起こりやすい
・王立麻酔科医協会の小冊子には、全身麻酔中に術中覚醒が起こる原因、防止策、自分の身に起こったらどうすべきか、などが詳しく説明されている
出典:王立麻酔科医協会/英国・アイルランド麻酔科医協会
このほかの研究
・レスター大学の臨床心理学者マイケル・ワン教授は、患者からの報告に頼る方法では、偶発的な術中覚醒を正確に測定できないと考えている
・別の研究では術中覚醒の発生率は最大600件に1件 ひえ~((((;゚д゚))))
・ワン教授は、賛否両論のある「前腕分離法」を使用したさらなる研究を期待している。前腕分離法とは、医師に知らせられるよう、患者の腕を動ける状態にしておくものである
(英語記事 Waking up under the surgeon’s knife)
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