オーケストラの就職事情

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 オーケストラの優雅な響きの背後には
  過酷な現実があるようですね  (T_T)
 
厚生労働省が発表した8月の有効求人倍率は、1.63倍。
日本人の勤勉さをもってしても、よくここまで日本が持ち直したものだと思います。
バブル崩壊後の1993年から2005年までの13年間、リーマンショック後の2008年から2013年までの6年間は、有効求人倍率1倍を割っていたわけで、その時代に就職活動をしていた方々は、本当に大変な思いをなされたと思います。
転職なんてとんでもない時代でもありました。
特に1999年には求人倍率0.48倍を記録。いわゆる「氷河期」です。
その年を挟んで前後数年間は、2人に1人しか就職できない状況だったわけです。
一方、オーケストラの就職事情に目を向けてみると、世界のどこを見まわしても、求人倍率0.48倍などという“素晴らしい時期”はなかったことでしょう。
最初に答えを言いますと、0.01倍にも届かないのが実情です。
9月3日付本連載記事でも少し触れましたが、たとえばヴァイオリンひとつとっても、日本全国42校ある音楽大学から、毎年ものすごい数の卒業生が生まれてきます。
そんな彼らに対して、日本にはオーケストラが36団体しかないうえに、各オーケストラのヴァイオリンの求人は毎年、数名程度あるかどうかなのです。
オーケストラによっては、募集がまったくない年もあります。
しかも、卒業して何年もオーディションを受け続けるので、著名オーケストラともなれば、たった1名の求人に対して200名以上の候補者がオーディションに押しかけて椅子を奪い合うということも珍しい話ではありません。
この背景には、細分化された専門職集団というオーケストラの特異性があります。
オーケストラは大きく、弦楽器、管楽器、打楽器、そしてハープやピアノに分けられます。
たとえば管楽器では8種類あります。
そのなかで一番高い音を演奏するフルートの定員は、オーケストラの規模にもよりますが、通常2名から3名程度です。
それもまた、首席奏者と2番奏者に分かれます。
こう聞くと、多くの方は「2番奏者としてオーケストラに入って、経験を積んで首席になるのだろう」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
ソロが多い首席奏者のほうが給料は高いことは確かですが、2番奏者も首席奏者とは違う特別な技術が必要となる専門技術者なのです。
首席奏者も2番奏者も、同じ楽器でありながらオーディションは別に行われます。
そして、当然のことながら、フルート奏者はフルートしか演奏しないので、仮にトランペットやヴァイオリン、クラリネットの求人がたくさんあったとしても、フルートに空きがなければ、その年の就職口は閉ざされてしまいます。
オーディションに受かった後にも困難が待ち受けている
このように常に就職難の状況なので、海外のオーケストラのオーディションを受けて、日本から離れて活動をしているオーケストラ奏者も数多くいます。
もちろん、留学をして当地のオーケストラのオーディションを受けた方々が多くを占めているので、日本のオーケストラが就職難だから海外で就職というケースは多くありませんが、北はフィンランドから南は南アフリカまで、ヨーロッパ、アメリカ、アジア諸国と、どこのオーケストラに行っても、大概は日本人奏者に出会います。
では、海外のオーケストラのほうが就職口は多いかといえば、そうではなく、事情は日本とまったく同じです。
やはり、誰かが定年退職したり、途中退団してくれないことにはポジションが空きませんし、運よく空いたとしても何十人、何百人もの若い音楽家がオーディションに押し掛ける点では同じなのです。
しかも近年、ヨーロッパではビザの申請基準が厳しくなっており、外国人が職を得ることが本当に難しくなってきました。
さて、オーディションに運よく受かったとします。
しかし、「もう一安心。家族親戚にも胸を張って会える」かといえば、そうではありません。
ここからが本当の勝負となります。それは、1年間の試用期間です。
その期間中は、実際に仕事をしながら、ずっと周りの楽員に審査をされることになります。
若い奏者は経験もありませんし、そのオーケストラ独自のやり方を習得するだけでも大変なのに、これまで演奏したことのない新しい曲が毎週、押し寄せてきます。
なんとか最初の2、3カ月はこなせたとしても、1年間はとても長く、そこでボロを出してしまうことも多いのです。
それをすべて乗り越えたのち、最後にオーケストラの同意を得て、やっとプログラムにも正団員として名前を載せてもらえることになります。
残念ながら、その試用期間を通ることができなかった奏者を、僕もたくさん見てきました。
皆さん、「オーケストラの楽員って、大変だなあ」と思われたと存じます。
僕も心からそう思います。
しかし、少しは良いことがあります。
僕がロサンゼルス・フィルハーモニックの副指揮者をしていた時に、当時のフルート首席奏者であるジャネット・ファーグソン氏が、こう話してくれました。
「私の主人は、ウォルト・ディズニーで仕事をしているの。良い仕事だけど、半面、いつリストラされるかわからない。だから、オーケストラ奏者のほうが安定しているのよ」
僕はなるほどと、思いました。
アメリカのオーケストラは、音楽監督(指揮者)が絶大な力を持っており、奏者をクビにできるほどの権利があるけれども、音楽家組合が強いので、実際にはできません。
日本のオーケストラでも就職するのは大変ですが、よほどのことがない限り、リストラの心配はありません。
オーケストラには一般企業とは違う根本的な理由があるからです。
たとえば、いくら経済状態が悪くなっても、「この経営危機を乗り越えるために、フルートは1人だけにしよう。トランペットはなし」といったことはできません。
ひとつでも楽器が欠ければ、作曲家の楽譜通りには演奏できなくなります。
つまり、オーケストラは全体が一蓮托生といえるのです。
(文=篠崎靖男/指揮者)
 


 

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新しいホルンの教授のオーディション

前の教授が引退してからしばらく新しい教授が来るまでに間が空いてしまっており、ここ数年は非常勤のような形でGerman BrassのWolfgang Gaag氏が教鞭をとっていました。
しかしGaag先生ももう70歳ということでかなり無理をなさっていたことと思います…
そしてようやっとホルンの新しい教授の選考オーディションが開かれえることになり、2017年秋から新しい教授が来ます。

ドイツの国立音楽大学の教授の地位
ドイツには十数校の国立の音楽大学があり、各楽器には教授がいます。
もちろん国立大学の教授ということなので社会的な地位もとても高く、自分の公式な生徒を10人以上持てて、さらには年収も教授職だけで月収100万くらいなのでなりたい人はたくさんいます。

 ドイツの音大教授の選考方法

日本の大学の場合は

大学院へ進学→講師→教授

という内部での動きが大きいイメージですが(音大は必ずしもこうではありませんが)ドイツはそういったしがらみは一切なしで、募集をだして集められた候補者の中からオーディションによって選考されます。
まず応募してきた候補者の中から、誰をオーディションに招待するのかを教授たちが会議によって決めます。
大体の目安としては

・Aクラスのオーケストラの首席であること

・国際コンクールなどの受賞歴

・教育者としての実績

といった感じです。
Aクラスのオーケストラとは、オーケストラの給料と楽団員の数によってSABCDにランク付けされたものののことです。
ベルリンフィル、バンベルク交響楽団やフランクフルト放送響、ライプツィヒゲヴァントハウス、などが挙げられます。
そしてプロフィールによる選考の結果、10人ほどに招待状が送られます。

オーディションの審査員には現教授ははいれない

オーディションの審査員は、弦楽器・木管楽器・金管楽器・打楽器から1~2名ずつの教授と、他大学のその楽器の教授が入ります。
今回でいうとマンハイムとフランクフルトの教授が来ました。

そして公平のために現教授は審査員にははいりません。

ここがほんとうに公平ですごいなと思いました。
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オーディションの内容はソロとレッスン

オーディションはまず45分のソロを演奏します。時代別でいくつか。
そのあとに2人をレッスンします。
1人は学部の若い生徒で主にソロ曲
もう1人は大学院生の生徒でオーケストラスタディ(オーケストラの中でのソロなどの断片)
をやります。
演奏の実力・レッスンの内容などを教授陣がみて判断します。
審査員の教授陣はどちらも最高レベルの超プロ集団… 緊張することでしょう…
そして一番かわいそうなのはそのレッスンを受講する生徒w
10人のめちゃくちゃ偉い教授達の前でレッスンをうけなければならないという状況…そしてレッスンする方の先生も緊張している笑

公正なシステム

このような取り組み方を見ていると、本当に公正な審査ということがよくわかります。教授という職がそれほど重要な立場と認識されていることも。
そして新しい教授が来た場合、今の講師の先生たちは基本的に解雇です。
ということでクラスが本当に一新されることになります。
あまりレベルが高くなかったところも、教授が変われば今までは受験に来なかったような人材も集まったりして一気に変わります。
ドイツの場合、”どの音大が一番いい”というようなものはなく”この大学のこの楽器のこの教授のクラスがいい”という判断基準なんですね。
まだ審査は終わっていませんが、新しい教授が来るのが楽しみです。
 

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