13【人生いろいろ】

林芙美子「放浪記」を読む

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林芙美子(→)の代表作放浪記を読んだ

新潮文庫で576ページという、やや長い作品で、第一部、第二部、第三部に分かれている

第一部を読み始めると、話があちこち飛んで時系列が混乱しているような、ストーリー性が弱いような印象があって、はっきり言って読みにくい

これが原因で、途中で読むのを断念する人も多いらしい

話の途中に沢山の詩が入っているので、自伝的作品でありながら、詩作前後の背景解説付き詩集といった感じ

それでも何とか第一部を読み終え、一晩寝たら頭の中が少し整理されたのか、翌日に読んだ第二部以降は分かり易かったし、急に面白くなった

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自伝的作品と言っても、中心は芙美子が20代の若く貧しかった時代の話

それも半端ない貧しさで、毎日の食べものを手に入れるのに汲々としている

空腹なのにお金が無く、下宿の下の階に忍び込み、炊事場で味噌汁を盗んで飲む場面には唖然とする

その中でも読書だけは、まさに寸暇を見つけて続けており、本当に文学が大好きなのがズキズキ伝わってくる

今からちょうど120年前の、明治36年(1903年)生まれなので、私から見ると祖父祖母の時代と重なる

この時代の貧しい家庭の子どもが小学校を卒業すると、男の子は丁稚奉公、女の子は女中奉公などに出るのが普通で、小卒で社会に出るのが当たり前の時代だった

大学へ行くのが珍しくもない現在のような豊かな社会になったのは、1960年代の高度成長以降のわずか半世紀ちょっとで、日本の歴史から言ったらごくごく最近の話なのだ

芙美子は小学生のころから、親と一緒に行商をしており、今で言えば飛び込み営業のような仕事もする貧しい家庭の子どもだった

旧制中学(女の子は女学校)へ進学できるのは、富裕な家庭の子どもに限られていた

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そんな時代だったが、小学校の教師が芙美子の文学的才能を発見し、そのすすめもあって女学校に進学する

親からの支援はほとんど期待できず、

「昼は女学校で、夜はバイト」

「周囲はお金持ちのお嬢さまばかり」

という十代のキツイ4年間を過したはずなのだが、その辺の苦労話が本書には少ない

もしかすると、キツイながらも結構楽しい女学校生活を送っていたのかもしれないし、芙美子にはそんな精神的たくましさ(生命力がある

芙美子自身も、芙美子の母親も男運が悪くて、つまり非常に稼ぎの悪い男とばかりくっついて、この辺の男関係や貧困生活の苦労話が哀愁を帯びている

確かに明日をも知れぬ毎日、赤貧洗うがごとしの毎日なのだが、その割に芙美子本人は余り深く悩んだりせず、「お金が無い無い」と言いながらもあっけらかんと毎日を送っており、たくましい生命力を感じさせる

おそらく「何も無い者の強み」というのか、もうこれ以上落ちようがない境遇のもたらす不思議な安心感のようなものがあったのかもしれない

雑貨の行商のような仕事から始まって職を転々とし、カフェーの女給(今ならキャバ嬢?)もしていて、この辺の描写が森光子(→)の有名な舞台「放浪記」で詳しく演じられていたらしい

舞台を生で見ることはなかったが、舞台を記録した動画が手元にあるので、「放浪記」の映画とともに近日中に観たいと思っている

実は、私が以前に住んでいたマンションの上の方の階に森光子が住んでいて、エレベーターで時々一緒になったりしていたのだが、話しかけたりお近づきになることはなかった(少しもったいなかったかな)

もちろん大女優なのだが、すぐ近くで見ると小柄なおばあさんといった感じ

こんな人が20代のカフェーの女給の役をやるのかなと不思議に思った

カフェーの女給をテーマにした文学と言えば永井荷風なのだが、彼はカフェーのお客となる金持ちの中年男で、芙美子はカフェーで働く貧しくて若い女という、まったく正反対の立場

荷風が足繁く通った銀座のカフェー「タイガー」の名は「放浪記」にも登場するが、荷風と芙美子が同じ店内で客と女給として同席したことは、たぶん無かったようだ

本書「放浪記」全体を読んだ印象としては、21世紀の今なら何の違和感もなく普通に生きていそうな現代的感覚の女性が、たまたま運悪く1世紀前に生まれてしまったような感じがする

「エセー」を書いたモンテーニュは、「中世に生まれた近代人」などと言われているが、彼は貴族だったので経済的な苦労はしていない

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以前に瀬戸内寂聴(→)の動画を見ていたら、

「若い頃はいろいろ苦労したけど、

 だんだん時代が私に追いついてきたので、

 いまは生きるのがとても楽になりました」

というようなことを言っていた

芙美子の場合、時代が彼女に追いつくことは無かったのかもしれないが、たまたま雑誌に連載した「放浪記」(第一部)が人気となって、単行本もベストセラーになった

またたくまに文壇の寵児となり、貧困を抜け出して経済的成功も手に入れた

この辺の事情は、ギッシング「ヘンリ・ライクロフトの私記」を連想させる

19世紀の英国の売れない作家が、お金のためにしたくもない仕事をしたり、書きたくも無い雑文を書いたりして貧しく暮らしていたが、ある日遠い親戚の遺産が転がり込み、本当に書きたい作品だけを書くという恵まれた書斎生活に移行した喜びにあふれている

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ジョブズ(→)は「適度なレベルのお金」( some money )が手に入ったら、それ以上のお金は人生にとって大切ではないと言ったが、「適度なレベルのお金」すら無いとかなり悲惨な人生になるので、運良くそれが手に入った時の喜びは非常に大きいようだ

ただ芙美子の場合、出版社に原稿を持ち込んで断られたりした貧困時代の記憶のせいか、どんな仕事でも断ることなくガツガツ引き受けるので、同時代の同業者(作家)たちからは「仕事を奪う女」として嫌われていたそうだ

およそ人間には

遠くから見ると立派な人物なのだが、近くで付き合うとイヤな奴・・・(1)

遠くから見ると悪党だが、近くで付き合うとすごくいい人・・・(2)

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の2種類がいるようだ

政治家で言えば(1)は中曽根康弘、(2)は田中角栄(→)と言われているが、どうなのだろうか

芙美子は、(2)のタイプだったのかもしれない

冒頭の新潮文庫の表紙に書かれた有名な言葉

「花のいのちはみじかくて

 苦しきことのみ多かりき」

は、芙美子の貧しくて苦しい前半生を象徴しているとされているが、作家の村岡花子に送った芙美子からの手紙に書かれた下の文章こそ、彼女の生命力を象徴している

「多かりき」と「多かれど」の違いに注目してください

 

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経済的な成功を手に入れた芙美子は、新宿区に豪邸を建て、画家の男(手塚緑敏、→)と幸せな家庭生活を送っていた

だが、どんな仕事でも断ることなくガツガツ引き受けることで無理をし過ぎたせいか、1951年(昭和26年)にわずか47歳であっけなく急逝(心臓麻痺)

みじか過ぎる花のいのちを散らしてしまった

仕事の無理もあるが、若い頃の貧困による劣悪な食生活で栄養が偏り、免疫力が低下していたのではないだろうか

芙美子が急死した場所は、食レポ(グルメ紀行文)を書くために訪れたうなぎ屋で、芙美子はすでに超人気作家になっていたのに、そんな新人ライターがするような雑仕事まで引き受けていた

それで「仕事を奪う女」として文壇からは嫌われていて、芙美子の告別式では葬儀委員長をつとめた川端康成(→)

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故人は、文学的生命を保つため、他に対して

時にはひどいこともしたのでありますが

しかし、後二、三時間もすれば

故人は灰となってしまいます。

死は一切の罪悪を消滅させますから

どうか故人を許して貰いたいと思います

と弔辞を述べて、参列していた多くの芙美子ファンの涙を誘った

芙美子が一緒に暮らした手塚緑敏は、画家としての才能は開花せず、彼女の作家収入に依存して、今で言う「主夫」として暮らしていた

今ならそんな夫婦は珍しくないが、何しろ1世紀近くも前なので、周囲からは「髪結いの亭主」とか「ヒモ」とか言われて白い目で見られていたかもしれない

でも手塚緑敏はそんなことを気にせず、右上の写真のように芙美子と仲良く楽しく暮らしていたようで、芙美子と同様に「たまたま運悪く1世紀前に生まれてしまった」現代的感覚の持ち主だったようだ

芙美子は1903年に生まれ、その前半生は極貧の中で生き、27歳(1930年)から「放浪記」が売れに売れて極貧から脱し、多くの仕事と実直な夫(緑敏)に囲まれて、充実した後半生(約20年間)を生きた

芙美子が建てて手塚緑敏との楽しい生活を送った豪邸は、現在は林芙美子記念館として公開されている

近日中に尋ねてみたいと思っている

(^_^;)

 

21歳の日本人の6割は全く本を読まない

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▲モンテーニュの読書室(librairie)

 

21歳の日本人の6割は、まったく本を読まない。

文部科学省が10/13に公表した令和4年の「21世紀出生児縦断調査」でこんな結果が出た。

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同じ若者が小学生だった当時よりも読書量が大きく落ち込んでおり、交流サイト(SNS)や動画投稿サイトの普及が一因と指摘されている。

文部科学省は

読書は人生の豊かさにつながる

 図書館の整備などを通して

 読書の習慣付けを後押ししたい」

とした。

文部科学省は、平成13年に生まれた特定の子供に、毎年多岐にわたる質問をして、その変化を調べている。

今回は約2万2千人分の回答を分析した。

「この1カ月に読んだ紙の書籍(本)の数」との質問に「0冊」と答えたのは62・3%。

「1冊」19・7%、「2、3冊」12・3%、「4冊以上」5・8%だった。

 

* * * * * * *

 

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文部科学省が「読書は人生の豊かさにつながる」と言っているのは、間違いではないが、読書に限定する必要はないと思う

スポーツは人生の豊かさにつながる

旅は人生の豊かさにつながる

仕事は人生の豊かさにつながる

人間関係は人生の豊かさにつながる

コスプレ(→)は人生の豊かさにつながる

他人に迷惑をかけず、しかも本人には楽しい(または有意義な)何かをすれば、たいてい人生の豊かさにつながるものだ

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文豪の永井荷風(→)「人生に三楽あり」と言った

それは酒と女と読書だった

作家なので読書が入るのは当然かもしれない

酒を人生の楽の一つにしている人は多かろう

女を三楽に入れているのは、いかにも荷風だ

ただ荷風の場合、それは単なる交際やセックスにとどまらず、のぞき趣味などかなり変態の色彩を帯びている

何を人生の楽にするかは、各個人が勝手に決めればいいことだ

人生に三楽どころか、二楽も一楽も無い、まったく無いというのは少々悲しい

現在の日本のような、平和で自由で豊かな国に生まれて、何も楽しみを見つけられないというのは、余りにも悲し過ぎる

しかしそれも個人の自由、他人が本人に向かってとやかく言うことではない

話を読書に戻すと、読書は単なる趣味だ

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本を読む読まないは、100%個人の自由だ

ただ私が一緒に酒を飲むなら、読書を趣味にしている人と飲みたい

なぜなら本を読まない人は、たいてい話題が貧困で、会話の相手として詰まらないからだ

誰と一緒に酒を飲む飲まないは、100%私の自由だ

(^_^;)

 

スティーブ・ジョブズ 最後の言葉

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スティーブ・ジョブズ、アップル社を創業した天才的経営者

1955年2月24日に生まれ、 今日からちょうど12年前の2011年10月5日に、56歳で亡くなっています

2003年、48歳のときに膵臓ガンが発見されましたが、当時東洋文化に傾倒していたジョブズは西洋医学的な手術を拒否し、菜食主義、ハリ治療などを用いて完治を図ろうとしました

9か月後の検査でガンが大きくなっていることが分かり、ジョブズは上の判断をのちに相当後悔しています

上の動画は治療の末期、すでに死を覚悟したジョブズの言葉です

お金には麻薬のような性質があり、手に入ると、もっともっと欲しくなるようです

人生で「適度なレベルのお金」が手に入ったら、別なことを追求すべきだと、ジョブズは上の動画で言っています

THE CIRCUS, Charlie Chaplin, 1928

喜劇王のチャップリン(→)は、次のように言っています

人生は恐れさえしなければ、とても素晴らしいものだ。

そのために必要なものは、

勇気、想像力、そして少しのお金だ。

Yes, life is wonderful, if you’re not afraid of it.

All it needs is

courage, imagination, and some money.

この some money こそ、ジョブズの言う「適度なレベルのお金」でしょうか?

「適度なレベルのお金」がどれほどの金額かは意見が分かれるかもしれませんが、さほど大きな金額ではないはずです

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松下幸之助(→)、松下電器(現在のパナソニック)を創業した日本の天才的経営者

彼は、1965(昭和40)年、本社を置く大阪府門真市が主催した成人式に出席しました

そして新成人たちを前にして、次のように話しました

もしできることならば、わたしは

自分のいっさいを投げ捨てても

みなさんの年齢にかえりたい

このとき松下幸之助は、71歳でした

この言葉には、成功した経営者が若者に向かって教訓を垂れているのではなく、「若い頃に戻りたい」という、老人の正直で切実な叫びを感じます

ジョブズは17歳の時、

「毎日を、それが人生最後の1日だと思って生きれば、望んだ人生になる」

という言葉にどこかで出会いました

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それは彼にとってとても印象的な言葉に映りました

その日を境に彼は毎朝

「もし今日が人生最後の日だとしても、

 いまからやろうとしていたことをするだろうか?」

と、鏡に映る自分に問いかけるようにしていたといいます

そのジョブズが人生の最後に、冒頭の動画のような言葉を話しています

ガンなどの重病になると、医者から「期待余命×年」とか「5年生存率××%」などと言われることがあります

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この言い方を借りるなら、すべての人間は生まれた瞬間に

「期待余命81年」あるいは「81年生存率50%」

ということになります(女性は87年)

いま60歳の男性なら

「期待余命24年」あるいは「24年生存率50%」

になります

これは世界最高水準の、日本人の数字です

逆に短いと言われているロシア人では、生まれた時点で男性60年、女性73年です

この数十年という期間が、若いうちは非常に長く感じられて、ほとんど永遠のような気がするものです

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人生を山道にたとえることがあります

若いうち目の前には山頂へ続く長い長い道があり、その向こうには無限の青空が広がっているように見えます

ところが人生のある時期に差し掛かると山頂に到達し、その先を見ると、下り坂の先に麓(ふもと)が見えます

その麓には大きな穴があいていて、それが死なのです

若いころにはまったく見えなかった、死という大きな穴が、いま目の前にありありと見える

それが人生のようです

((((;゚д゚))))

 

猫の店員さん

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愛媛県松山市にある

プリン専門店 坂の上の猫

の、猫の店員さん・ミクちゃんです

今日は兵庫県加古川市で、プリンの出張販売中です

ぜひ東京にも出張して欲しい

(^_^;)

 

▲なんとピアノも弾ける

 

ブーフーウーとゴッドファーザー

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NHKに「おかあさんといっしょ」という子ども向け番組があって、これは数十年前から続く超長寿番組なんだけど、その最初のころに番組内で「ブーフーウー」という人形劇が演じられていました

なぜかメキシコが舞台で、そこに住む3匹の子ブタの物語

ブー(長男ブタ):ぶつぶつや 声:大山のぶ代

フー(次男ブタ):くたびれや 声:三浦勝恵

ウー(末っ子ブタ):がんばりや 声:黒柳徹子(→)

もともとは絵本だったのを、NHKが人形劇にしたようです

先日、映画「ゴッドファーザー」のパート1~3を通して観たんだけど、この中で初代ゴッドファーザーであるヴィトー・コルレオーネには3人の息子がいます

これが「ブーフーウー」の3匹の子ブタとキャラが一緒!

 

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長男ソニー・コルレオーネ(←)は、気が短くて怒りっぽく、いつもブツブツ文句を言っている

次男フレド・コルレオーネは、お人好しで少しアタマの弱い頼りない男で、いつもヘマばかりして周囲に迷惑をかけ、本人もコンプレックスのカタマリになっている

末っ子マイケル・コルレオーネは、大学出のインテリ秀才(昔は大学へ行くのはインテリ秀才だけだった)で、マフィア(イタリアヤクザ)を嫌っていた

長男ソニーはチンピラみたいな性格で、マフィアのボス(組長)になるような器ではなかったが、他にいないから多分こいつがボスの後を継ぐんだろうなと、本人も周囲も思っていた

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次男フレド(→)は、人がいいだけで、組織の上に立てるような人間ではない

末っ子マイケルは、大学を出た後、マフィアになることを嫌って海兵隊に入ったりしていた

初代ゴッドファーザー、ヴィトー・コルレオーネは、末っ子マイケルを気に入ってかわいがっていたが、マイケルがマフィア(ヤクザ)を嫌っているのを知っていたから、マイケルだけはマフィアにしたくないと考えていた

 

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それが運命のイタズラで、長男ソニーがファミリー(組)間の抗争であっけなく殺されてしまい、末っ子マイケルが二代目ゴッドファーザーになり(↑)、ドラマが展開していく

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初代ゴッドファーザー、ヴィトー・コルレオーネは、故郷イタリアのシシリー島(→)で、地元ヤクザに両親や兄を虐殺され、わずか9歳で天涯孤独の身となって新天地アメリカへ渡ってきたので、家族を大切にする思いが非常に強い

映画「ゴッドファーザー」は、ファミリー(ヤクザの組)の物語であると同時に、ファミリー(家族)の物語でもあり、ストーリーに重厚さを増している

(^_^;)

 

▲「ぼく自分で直してみるよ」って、若き日の黒柳徹子の声

 

一緒に寝るの

私は基本的にネコ派なんだけど

 こりゃカワイイね!

(^_^;)

 

この世界は人間が見ている夢?

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「自分が見ている世界は、実は水槽に浮かんだ脳が見ているなのではないか?」

との説は、巷でよく言われる思考実験の一つです。

このような考えを元に、実存主義やエントロピーの概念を解説したビデオを、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが公開しました。

 

* * * * * * * * * *

 

世界の実在や人間の認識に関する議論で必ず出て来る「水槽に浮かんだ脳」仮説

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日常とか常識を余り疑わないで生きている方々には奇妙な説に見えるのかもしれませんが、哲学好きには魅力的な仮説です

私も哲学好きなので、この仮説には余り違和感がありません

いやむしろ、かなり実感をともなった感覚(世界観)かもしれない

いま私の周囲に広がっている世界(宇宙)や、私の周囲にいる人たち、ビッグバンに始まると言われているすべての宇宙や地球や人類の歴史は、すべて私の脳が創り出した夢(幻想)なのではないか?

もし私が死んだら、世界(宇宙)も時間も実在性を失って消滅し、すべては無に帰する

このような仮説は、過去においても唯心論的な哲学や宗教で唱えられたりしていた訳ですが、いま科学の最先端の理論物理学者などでも、この仮説に魅力を感じる人が増えていて、一般の人たちの間にも共感が広がっているようです

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これとは少し違うけど、心理学者・岸田秀の「唯幻論」(ゆいげんろん)というのがあって、彼は世界はすべて幻想であると主張しています

岸田秀は高校生の頃から原書(ドイツ語)でフロイトに親しんで(のめりこんで)いたという、かなりの変人(天才肌)

彼の主著「ものぐさ精神分析」(←)は、「唯幻論」で脚色されたフロイト哲学(精神分析)の入門書で、非常に読みやすいオススメです

私は若い頃にこの本に出会い、余りの面白さにグイグイ引き込まれ、正続2冊計800頁余りを、一晩徹夜で読み明かしたことがあります

この本は要するに「この世はすべて幻想である」「人間は本能の壊れた動物である」と主張し、その立場から人間行動や世界の歴史を説明する

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例えば高校生が必死に勉強していて、

「あの大学に合格できたら、きっと

素晴らしい人生(毎日)になるだろう」

と考える

しかし実際に合格して憧れの大学に入学すると、うれしくて舞い上がるのは、せいぜい1か月くらい

やがて現実の人生(毎日)が期待したほどのものでなかったことに気付き、中には幻滅して五月病に陥る人も出てくる

そして大学卒業が近づくと、

「あの会社に採用されたら、きっと素晴らしい人生(毎日)になるだろう」

と考え、さらに

「あの人と結婚できたら・・・」

「課長になれたら・・・」「役員になれたら・・・」

「自分の家が持てたら・・・」

でもそれはみんな夢(幻想)に過ぎず、夢が実現すれば、やがて必ず幻滅する

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なんだか夢も希望も打ち砕くような悲観的な哲学ですが、これを完全に否定し切るのは難しい

俗に「悲観哲学」と言われているショウペンハウエルの考え方も、これに近いと言えそうです

もしかすると遺伝子(DNA、→)が、人間(個体)の行動力(繁殖力)を高めるために、人間の脳に「夢を持つ」という特殊な機能を持たせたのかもしれません

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岸田秀さん(←)は現在、1933年12月25日生まれの89歳

余り将来に夢を持たない方が、長生きできるのかもしれませんね

  (^_^;)

 

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ウラヤミ系 修羅場 YouTube 対岸の火事

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ネット上には、「裏」「闇」「修羅場(しゅらば)」というようなキーワードに該当する情報がある

私は「ウラヤミ系」と勝手に呼んでいる

世間体を考えて乙に澄ましている「オモテの顔」の背後に、人間のドロドロした欲望が渦巻いていて、それが時々露出している場面がウラヤミ系の舞台だ

ヤクザなど反社勢力や犯罪現場が登場することも多いが、犯罪までいかなくても、不倫などの男女関係や、嫁姑対立など家族関係に関する修羅場も多い

昔は(今でもあるが)「アサヒ芸能」とか「週刊大衆」みたいなスキャンダル専門雑誌があって、芸能人や有名人の修羅場を扱っていたし、テレビのワイドショーなども似たような世界

今はネットで誰でも情報発信できるので、ごく普通の一般人の修羅場情報が、ネット上には山ほどアフレている

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共和制ローマ期(紀元前1世紀)のエピクロス派の哲学者(詩人)に、ルクレティウス(→)という人がいる

彼はその著書物の本質について』(De Rerum Natura)の中で、次のように書いている

「大海で風が波を掻き立てている嵐の時、安全な陸の上から(船に乗った)他人の苦労をながめているのは面白い。

他人が困っているのが面白い楽しみだと云うわけではなく、自分はこのような不幸にあっているのではないと自覚することが楽しいからである。

野にくりひろげられる戦争の大合戦を、自分がその危険に関与せずに見るのは楽しい。

とはいえ、何ものにも増して楽しいことは、賢者の学間を以て築き固められた平穏な殿堂にこもって、高所から人を見下し、彼らが人生の途を求めてさまよい、あちらこちらと踏み迷っているのを眺めていられることである。

才を競い、身分の上下を争い、日夜甚だしい辛苦を尽くし、富の頂上を極めんものと、また権力を占めんものと、あくせくしているのを眺めていられることである。」

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対岸の火事」「他人の不幸は蜜の味などと言うが、ルクレティウスはその心情を、セキララに、ぬけぬけと、哲学的な詩に書いている

大昔(紀元前1世紀)の人だが、人間のこの辺の心情は、2千年たっても変わらない

人類が自我(自意識)を持つようになった、たぶん数百万年前からずっと変わらない、人間の持つ根源的な心情の一つなのだろう

グーグルやYouTubeで「修羅場 不倫」などと入れると、その種の「対岸の火事」情報が山ほど出て来る

上の動画はその中の一つで、特に厳選したものではなく、この程度の平凡な修羅場情報ならネット上にありふれている

中には、不倫された側からの報復(復讐)が徹底していて、不倫した側を精神的にも経済的にも社会的にも、地獄の底までトコトン追い詰めていくようなスサマジイ動画もある

普段はおとなしい温厚な人でも、怒らせたら怖い人は確実に存在する

どちらかと言うと、妻に不倫された夫が、腹いせや同情集め、あるいは第三者のアドバイスを求めて、2チャンネルなどのネット掲示板に不倫の経緯を投稿(カキコ)するケースが多い

どう考えても不倫妻より不倫夫の方が多いと思うのだが、夫に不倫された妻からの情報が少ないのは、ネット掲示板の利用者に男が多いからだろう

それらの掲示板情報を整理して動画化したのが、修羅場 YouTube

投稿者は最初に「スペック」といって、自分や配偶者(汚嫁)、不倫相手(間男)などのプロフィール(子の有無、美人やイケメンかどうか、職業、年収、性格、愛情や打算の有無など)を紹介する

この種の投稿が多いせいか、この辺の書き方のスタイルは確立されている感じがする

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それから不倫発覚の経緯とその後の動き(興信所や弁護士が登場する場合が多い)や報復(復讐)について説明していく流れだ

「今日、不倫現場に踏み込んだ」とか、現在進行形の生々しい情報が多くて臨場感がある

その都度、掲示板を閲覧している第三者からの意見や質問、アドバイス、ツッコミが入る

最初はこんなの閲覧数かせぎの作り話ばかりだろうと思っていたのだが、非常にリアリティの高い描写が多いので、最近は実話の方が多いのではないかと思い始めている

 (^_^;) 

 

松永記念館を歩く

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先日、小田原の一夜城に登った際に見つけた松永記念館、昨日見学しました

開館は朝9時からで、少し早く着いたので小田原駅の近くの牛丼すき家でビール2本を飲み、30分くらい歩いて記念館へ

いやー、この途中の道が暑かったこと~ (;^_^;;;)

暑さのせいか見学客は私一人

「電力の鬼」松永安左エ門 (→)が晩年を過ごした自宅と茶室を静かに見学できました

帰宅して今日、

新井「七十歳からの挑戦 電力の鬼・松永安左エ門」

を読みました

明治から戦中戦後にかけての日本経済史の、ド真ん中を駆け抜けたような波瀾万丈の人生

昨日訪れた晩年の自宅に、総理大臣池田勇人とか、数多くの政財界人が通ったのですね

この松永安左エ門さん、福沢諭吉とか明治の話がいっぱい出て来るので、かなり昔の人のようでもありますが、1971年に95歳で亡くなられているので、割と最近の人でもあります

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上記の本には、実業家・福沢桃介(ももすけ、→)もたびたび登場します

同じく電力事業に傾倒し、時には松永の共同経営者、時には良きライバルだった桃介

ともに日本の電力開発に大きな足跡を残した天才実業家ですが、松永は秀吉に似た人たらしな所があり、桃介は信長に似てやや冷たく人を突き放すような所があった

松永と桃介は、ともに福沢諭吉の「直接の薫陶」を受けた慶応義塾の同窓

桃介の方が7歳年上だが、当時は入学とか学年とかエーカゲンだったので、ほぼ同期に塾生だった

諭吉は晩年、健康のために毎朝約4キロの散歩(三田から広尾や目黒のあたりまで)をしていたのですが、そのときに多くの塾生も同行し、その中に松永と桃介もいて、諭吉の前で時論を戦わせて親しくなりました

桃介は諭吉の娘と結婚(入り婿)して福沢に改名

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この桃介さん、右上の写真のようにジャニーズ系の超イケメン、おまけに超お金持ちだったので、モテまくって女性関係は派手だった

のちに日本最初の女優・川上貞奴(さだやっこ、→)と愛人関係(不倫)にあったことでも有名です

このあたり、川上貞奴が主人公の大河ドラマ「春の波濤」でも描かれました

もちろん、愛する娘のダンナが不倫すれば娘の父親である諭吉にとって面白くないのは当然ですが、当時は不倫(特に男の不倫)に対して世の中全般に甘いというか超ユルい感じだったので、大問題にはなっておらず、桃介と諭吉の関係が破綻したりもしていない

そんな訳で桃介と貞奴は、隠すことなく堂々と、愛人関係を続けました

桃介は水力発電所建設のため、たびたび木曽川に現場視察に出かけています

そのとき木曽川にかけた橋(桃介橋)や、貞奴と過ごした別荘(現在の桃介記念館)などが木曽川沿いに現存し、私も以前訪れたことがあります

帰りに川崎のよくいく回転寿司屋に寄ったのですが、そのときの板前さんが超面白い人だった

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親が医者で、その仕事の関係で海外で育ち、中学の時に日本に帰国したときは日本語がまったく話せなかった

英語フランス語イタリア語スペイン語が堪能で、今も1年の半分は海外生活、奥さん(イタリア人)は30歳以上も年下の超美人(写真を見せてくれた)

いま海外では日本人の板前が引っ張りだこで、日本での給料の倍以上もらえるとか、そんな人がなぜいま日本で回転寿司の板前をしているのかなど、面白い話をいっぱい聴きました

ビール1本のツモリで入ったのに、話の面白さにグングン引き込まれて、結局3本(今日は合計5本)飲んじゃった

 (^_^;)

 

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松永記念館(松永安左エ門の自宅)の居室

晩年の松永は、この部屋で寝起きをしていたらしい