バスタ新宿 開業2年半

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バスタ新宿」が開業して2年半が経過しました。
点在していた高速バス乗り場が統合されてわかりやすくなったと好評な一方で、1か所にまとめた課題も見えてきています。
どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

点在していた高速バス乗り場を1か所にまとめた
2016年4月、新宿駅の直上に「新宿高速バスターミナル」(タクシー乗降場などを含む通称「バスタ新宿」)が開業してから、まもなく2年半が経過します。
同駅周辺の高速バス停留所が原則として1か所に統合されたうえ、鉄道駅に直結した立地で乗客に好評です。
メディアでも多くとり上げられ、高速バスの認知向上にも寄与しています。
いま、東京駅、名古屋駅、三ノ宮駅(神戸市)などでも新しいバスターミナル(以下、BT)の計画が進んでいますが、一方でその先駆けである「バスタ新宿」では、統合ターミナルゆえの「限界」も見えてきています。
BTの新設と統合には、どのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。
「バスタ新宿」開業前、新宿地区では京王電鉄バスとジェイアールバス関東がそれぞれBTを運営し、双方の共同運行会社なども乗り入れていました。
周辺の路上にも各社の高速バス停留所が点在し、そのうち小田急グループは隣接するビル内に窓口も設置していました。
さらに、いわゆる「高速ツアーバス」の形態で運行していた各事業者の停留所のなかには、駅から相当な距離を歩くところもありました。
このような停留所の点在は、乗客にとってわかりづらいものでした。
「前回はここから乗ったから今回も」という思い込みにより違う停留所で待っていたり、地下歩道が張り巡らされた複雑な地形から停留所にたどり着けなかったりという問題も。
それら停留所が一部の例外を除いて「バスタ新宿」に集約され、しかもJR新宿駅の新南改札を出て目の前にあるエスカレーターに乗るだけというわかりやすさもあり、そのようなトラブルは急減しています。
発券窓口はバラバラ 自分の乗るバスがわからない人も
利便性が向上した一方で、「バスタ新宿」にはさまざまな課題もあります。まず、予約制路線の発券に使う座席管理システムは統合されず、計4種類が並行して使用されており、乗車する路線によって発券窓口が分かれます。また、かつて高速ツアーバス形態で運行していた一部の事業者については、窓口での発券業務に対応していません。
開業準備段階ではシステム統合案も出たようですが、筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)はその案に反対です。
たしかに高速バス全路線のシステムを統合するというと一見わかりやすいように見えますが、キャンセル待ち発券など路線ごとの特性に合わせた運用が難しくなります。また、システムどうしの競争がなくなれば、ニーズの変化に合わせた改修も止まってしまうリスクがあるのです。当日発券に限定した簡易な統合システムを新たに構築し、既存の座席管理システムと接続するという方法もありますが、それでは窓口で対応できる範囲が限られてしまいます。現状は、ベストではないけれど、現実的なオペレーションだと言えます。
次に、同一方面へ多数の事業者が競合するケースが多いため、BT内の旅客案内が複雑である点です。会社名よりも「〇〇ライナー」といったブランド名称を表に出す高速ツアーバスからの移行事業者と比べると、意外にも既存の高速バス事業者の方が難しい面もあります。共同運行関係が複雑でありながら、出発案内表示画面には運行会社名だけが表示されるので、共同運行先に電話予約した場合など、乗客自身が「自分の乗るバスだ」と認識しない例もあるようです。
この問題は、便名の付与ルールを統一することでおおむね解決しそうです。現在、国土交通省主導で「バス系統ナンバリング」の検討が進んでいますが、高速バスに限っては、「系統」「便名」「号車」「バース(乗り場)番号」といった多数の英数字を同時に記憶する必要が生まれる可能性があり、そうなると本末転倒です。そこで、便名に事業者(グループ)および系統を表す英数字などを組み込んだ付与ルールを作り、乗車券や予約確認メール、BT内の出発案内表示、窓口案内などに同じものを記載することが想定されます。
解決困難な「限界」が「成長の限界」になり得る?
一方、解決が困難な課題もあります。BTの発着容量(発着できる台数の合計)が、同地区における高速バス発着数の限界になってしまう点です。
高速バスは、需要の多い日のみ2号車、3号車を追加する「続行便」、時刻表自体を変更して運行便数そのものを増やす「ダイヤ改正(増便)」、新たな行先に向かう「路線(系統)新設」、もともと高速バス事業を行っていなかった事業者が高速バスの運行を開始する「新規参入」というふうに、様々な形で発着台数が拡大する可能性があります。しかし、地区内の高速バス停留所がひとつのBTに限定されると、現在の発着ダイヤでほぼ固定され、拡大が困難になります。
BT新設に際しては、周辺道路の車両の流れ、地域住民や商店の環境など様々な面で多くの関係者と調整を済ませますから、1日当たりの発着総数を簡単に増やすことができません。続行便や新規参入に柔軟な対応ができないと、繁忙日には早々に満席になったり、競争が止まって業界の活力が失われたりする心配があります。

東京駅八重洲口の京成バス2番乗り場付近。右側が高速バスターミナルを含む再開発ビルの建設現場(成定竜一撮影)。
高速バスの年間輸送人員(全国)は、2005(平成17)年には7905万人でしたが、2015年には1億1574万人となり、10年間で46%も増加しています。今後も、訪日外国人が団体ツアーからFIT(個人自由旅行)へシフトすることで増加が見込まれており、BTの発着枠が「成長の限界」となるのは避けねばなりません。
3つのビルに分かれる東京駅の新BT
先述のとおり現在、東京駅、名古屋駅、三ノ宮駅などで統合BTの開発計画が進んでいます。特に東京駅八重洲口に新設予定のBTは大規模なもので、高速バスや空港連絡バスに加え、「バスタ新宿」にはない定期観光バスも乗り入れる予定です。ただ、3棟の再開発ビルそれぞれの地下部分に分かれてバースが配置されるので、旅客案内はさらに複雑になるでしょう。
乗り入れるバスの種類によって、BTでのオペレーションも異なってきます。短距離高速バスや空港連絡バスは先着順自由席、中距離高速バスは座席指定制ではあるものの当日発券の比率が大きく、長距離夜行高速バスは座席指定制でほとんどが事前発券です。定期観光バスは事前発券が多いですが、乗車前に手続きが必要であるなど、路線のタイプによって発券、乗車の段取りも異なる傾向があるのです。それに合わせて、自動券売機や発券窓口を随時案内するほか、自由席制の場合は「整列するスペース」が必要となるなど、BT側で準備すべき施設も異なります。
発車が集中する時刻も、こうした路線タイプによって違いが出てきます。たとえば朝には乗車手続きスペースが必要な定期観光バスが、19時以降には整列スペースが必要な短距離の通勤高速バスが多くなりますが、これらで同じバースを使用し、時間帯によってスペースの使い方を変更する「二毛作」的利用法を実現するなどして、限られた空間で最大の発着枠を確保することが重要です。
また、BTの設計に際しても、「1日の発着便数の総合計」を最大化するのではなく、「ピーク時1時間当たりの発着便数の最大数」をなるだけ増やすことが、特定の時間帯に集中するバスの発着ニーズに対応するために有効でしょう。

東京駅八重洲南口を出てすぐのJR高速バス乗り場。新たな統合バスターミナルの完成後も、このバスターミナルは継続して使用される(中島洋平撮影)。
「バスタ新宿」を含む大きな統合型BTは、国や自治体、大手デベロッパーが整備を進めています。従来型ターミナルのようにバス事業者自らがBTを設置、維持するのに比べてコスト負担が小さく、鉄道駅前など一等地から発着できるので、バス業界としては大変ありがたいことです。今後、FITに人気のある「着地型(現地参加型)ツアー」の増加などに対応するためにも、関係者間で工夫や調整を重ね、新設BTを有効に活用することが求められています。

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