▲大塚家具の大塚久美子社長
M&Aで必死になって買い手を探してますが
「もれなく久美子が付いて来る」で
みんな尻込みしてしまうようです (;´Д`)
経営不振にもがき苦しむ大塚家具──。
在庫一掃セールで土壇場の大勝負をかけているが、自力再生は極めて難しい状況といえる。
2015年に父娘の経営主導権争いで勝利した大塚久美子社長だが、その後の舵取りは不安定そのもの。
かたや自ら創業した会社を追われた父の勝久氏が新たに始めた家具業は順調だという。
いったい、なにが父娘の明暗を分けたのか。
経済ジャーナリストの松崎隆司氏がレポートする。
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11月14日に発表した大塚家具の2018年12月期第3四半期決算によると、売上高は前年度比12.5%減の273億4400万円、経常利益は49億6900万円の赤字となり、状況は変わらず厳しいものとなった。
中間決算に引き続きゴーイングコンサーン(企業が存続できるかどうかについて監査人が意見表明するリスク開示制度)の注記事項も付されるなど、好転する兆しは見られない。まさに経営は火の車だといっていいだろう。中でも厳しいのが運転資金だ。
現在、大塚家具は1年前の2017年12月期には18億円の現金と27億円の投資有価証券の計45億円の手元流動資金を持っていた。その後、現預金を取り崩し、さらには有価証券を売却して何とか食いつないでいたものの、第3四半期ではそれが29億円まで減少。売上高は9月までほとんどの月で前年同月比割れが止まらない状況だ。
思い返せば、2015年3月の株主総会で過半数の株主の支持を得て社長の椅子を死守した久美子氏。そして経営者としての地位を失い会社を追われた創業者の勝久氏。その両者はこの短期間で再び明暗を分けることになった──。
無借金経営、キャッシュリッチといわれた大塚家具のブランドイメージを毀損させ、経営危機にもがき苦しむ久美子氏。一方、勝久氏が大塚家具を追われた社員たちを集めて設立した「匠大塚」は高級家具メーカーとして新展開を始めている。
匠大塚は12月7日、春日部店(埼玉)に続き2店舗目となる大宮高島屋に新店をオープン。今後は都内百貨店での出店も検討しているという。
もともと大塚家具は1969年に勝久氏が春日部に創業した大塚家具センターが前身だ。勝久氏の父は名人と呼ばれた箪笥(たんす)職人だったが、見ただけでは品質が取引先に伝わらない。そこで勝久氏がその良さを伝えるために徹底的に説明して回ったという。
その後、店舗数を拡大させていくが、最初は弱小企業で立地のいいところにはなかなか出店できない。人の来ないような場所に店舗を出さざるを得なかった。そこでお客さんを集めるために打った策が安売りだった。
ところが、安売り手法にメーカーも大反対。そのため、一般消費者に安く売るのではなく、特定の取引先に商品を卸すというビジネスモデルを取るために始めたのが「会員制」だった。丁寧な説明、会員制がその後大塚家具の高級ブランドイメージを築き上げていく。
勝久氏が社長を務めた2008年までに株式を店頭公開し、売上高668億円、経常利益14億円の企業へと育て上げていった。
久美子氏が社長に就任したのは、2009年に業績が悪化し赤字に転落してからだ。久美子氏は徹底的なコストカットを進め、わずか2年で経営を再建した手腕が伝えられているが、元幹部社員によると、「実際に営業面を支えていたのは勝久会長や幹部社員たちだった」という。
その後、久美子氏の経営にも陰りが見え始め、2014年には社長を一時解任されるが、翌年の取締役会で返り咲き、ここから“父娘戦争”が勃発する。そして、2015年にドロ沼の株主総会が繰り広げられた。
盤石の態勢を手に入れた久美子氏が思い描いていた経営戦略とは、これまでの高級路線から脱却だった。会員制などを廃止して敷居を低くし、入店しやすくするというものだ。これは消費者には「ニトリ」や「IKEA」に対抗して低価格帯の路線に転換すると受け取られた。
「ニトリやIKEAは郊外に店舗を構えるなどコストを抑え、割安感のある商品開発にエネルギーを注力してきた歴史がある。しかし大塚家具はこれまでずっと高級路線できて、いきなりニトリなどと対抗してもとても相手にはならないことは目に見えていた」(流通に詳しい事情通)
敷居の低い店づくりは当初、物珍しさから来店客が増えた時期もあったが、結果的には飽きられてほとんどの客が物見遊山。客寄せのバーゲンを繰り返すしか手がなかった。もちろん、高級志向の客離れも加速した。
さらに社員も久美子氏の経営スタイルに不信感を募らせていったという。
「何十年も慣れ親しんだ営業を否定されて、いきなり新しいことをやれといわれてもできるわけがない。しかも業績の悪い理由を社員のせいにされたら、社員だってやる気にならない」(大塚家具の元社員)
かたや、勝久氏が自ら保有していた大塚家具の株式売却資金で設立した匠大塚は、大塚家具を追われた社員たちの受け皿となった。創業者として自分についてきた社員たちに対する贖罪の気持ちだったのだろう。
「匠大塚に入ると、大塚家具時代よりも給料を上げてもらいました。会長には感謝しています」(大塚家具元社員)
人を大切にする勝久氏に対して、ひたすらコスト削減で利益を追求しようとしている久美子氏との経営姿勢の違いがここからも見て取れる。
経営危機に陥っている大塚家具は10月に入ると在庫一掃セールを断行、巻き返しを図っている。最大70%割引の在庫一掃セールで10月は107.7%と15か月ぶりに前年同期比割れを避けることはできた。
しかし、数字をさかのぼれば、前年度は前前年度の71.8%、つまり前前年から見れば今年の10月も大幅なマイナスになっているに過ぎないのだ。ちなみに前前年度にあたる2016年12月期は45億円の営業赤字に転落した年でもある。
このまま大幅な在庫一掃セールを続けてもその効果はあまりにも限定的といえるが、それでも久美子氏は売り上げ増をはかるために11月25日までセールを延長し、割引率も最大で80%まで拡大した。狙いは当面の資金繰りの悪化を何とか解消したというということだけではない。
コストカットが久美子氏の経営再建手法。いま、大塚家具にとって最大のコストは賃貸料だ。売り場面積を縮小し、空きスペースを転貸すれば賃料を下げられるだけでなく、保証金も戻ってくる。
すでに昨年から貸会議室大手のTKP(ティーケーピー)と提携し、新宿や新潟の空きスペースを会議室などで提供。11月には福岡のショールームの一部スペースもTKPに提供する話が浮上している。しかしコスト削減だけで大塚家具の再生ができるのか。もはや周囲の目は冷たくなる一方だ。