直前に読んだ「中世の星の下で」はヨーロッパ中世を扱っているが、本書は日本の中世を支配していた原理「無縁」をテーマとして、歴史を見るための一つの画期的な視点を導入している
左の本書表紙にもあるが、日本の古い絵画を見ると、横長楕円形がいくつか集まった「雲」のようなものが描かれている
これは当時の人々にとって「よく分からない世界」のシンボルだったのかもしれない
現代の自然科学万能の世界観からは想像しづらいが、中世までの世界は人間が支配した世界と、まだ人間支配に属していない「よく分からない世界」に分かれていた
人間支配に属した世界は、誰がその世界の主(支配者)であるかを明示された「有縁」の世界であり、それ以外の「よく分からない世界」は「無縁」とされた
大雑把に言えば、有縁の世界とは律令制で区画された農地であり、無縁はそれ以外の世界だった
有縁の民(百姓)は土地の支配者に隷従し、土地に縛り付けられた不自由な民だったが、それ以外の無縁の民(職人、商人、芸人、神職など)は、相対的に自由な民だった
それは支配者にとって不都合なことだったので、無縁の民は農民よりも下とされて、差別の対象となることも多かった
まさに「士農工商」なのだ
子供の遊びに「えんがちょ」というのがある
「えんがちょ」でつかまっても、「えんきった!」と宣言すると自由になる
これは「縁切った」であり、有縁(被支配)から無縁(自由)への移動宣言であると著者は指摘する
明治維新直前まで続いていた駆け込み寺は、当時の女性の離婚権にかかわる重大な存在だが、その根源は「縁切った」にあるらしい
現在でも、有縁の民(サラリーマン)と、無縁の民(自由業)の区分は、生きているのかもしれない
(^_^;)